地方議会の議員に対する懲罰処分に対する裁判所の審査(弁護士 兒 玉 修 一)

  2024年1月16日、奈良地方裁判所において、地方議会が、その構成員である議員(原告)に対して行った懲罰処分が違法であったことを理由とする国家賠償請求が認容される判決がありました。私は、この訴訟の弁護団の一員であることもあり、少し解説させていただきたいと思います。

  まず、前提となる事案ですが、簡単に言えば、香芝市議会の教育福祉委員会の会議の中で、生活保護申請等の際に市会議員が同行することが話題になった際、同議会の議長が、そのような議員活動が政治倫理条例に抵触するかのような発言をしました。これに対し、原告となった議員が、「条例の何条なのか」と確認を求めたところ、これが、議長に対する侮辱、名誉毀損にあたるなどの理由で、懲罰にかけられることになったというものです。
  懲罰特別委員会は、公開の議場における陳謝の懲罰が相当であるとして、これを原告に科しましたが、当該議員はこれを拒否しています。これが4回繰り返されたのち、今度は「陳謝しないのはけしからん」ということで、出席停止の処分を科してきたのですが、この時は、裁判所による差止決定(奈良地決令和4年9月1日判治492号13頁)により回避できています。
  ところが、今度は、裁判所による差止決定を免れようと、本会議が開催される日まで懲罰特別委員会自体を開催しないという姑息な手法で、当該議員に対する出席停止処分を強行しました。
  今回の訴訟は、その違法性を問うものです。

  実は、地方議会による議員に対する懲罰に関して、裁判所が、その違法性の有無を審査することができるのかというのは、はるか以前から議論されてきた憲法上の論点の一つです。私が、学生時代にお世話になっていた芦部信喜「憲法」では、除名処分について裁判所による司法審査が可能であることを認めた判例(最判昭和35年10月19日民集14巻12号2633頁)が紹介されているだけです。この判例では、除名よりも軽い処分、具体的には、戒告や今回議論になっている陳謝、出席停止といった懲罰については、裁判所は、その違法性の有無を審査できないことになっていました。
  ところが、本訴訟の少し前に、最高裁は、この判例を変更し、地方議会の議員の職責に照らせば、少なくとも出席停止処分については、裁判所は、その違法性の有無の審査を行うことができるという判断を示していました(最判令和2年11月25日民集74巻8号2229頁)。
  今回の訴訟は、この判例の枠組をさらに一歩進め、陳謝の懲罰についても、その違法性の有無の審査ができるのかが争われることになりました。

  ここで今回の判決のポイントは2つです。
  1つ目は、少なくとも「出席停止の懲罰が、これに先行する陳謝の懲罰に対する陳謝文の朗読拒否を懲罰事由として科されたものである場合」には、「裁判所は、出席停止の懲罰の違法性判断の前提として、陳謝の懲罰の適法性、相当性について判断することができる」としている点です。
  先の新しい判例の枠組を、さらに半歩前進させるものと評価できそうです。
  2つ目は、公開の議場における陳謝の懲罰に関して、その違法性の有無を判断するにあたっての要件を示したことです。具体的には、そもそも懲罰の事由自体が、懲罰動議書に記載された事由に限定されることを示した上で、さらに、陳謝の対象について、「市議会が認定した懲罰事由にかかる議員の言動並びにこれが議会の秩序維持およびその円滑な運営に及ぼした直接の影響に限られる」としています。
  先ほど述べましたように、この数十年間、裁判所は、除名処分以外の懲罰の違法性の有無を判断してきませんでした。その結果、その判断を行う際の枠組についても示してきていなかったのです。しかし、今回、陳謝の懲罰についても違法性の有無を判断することになったことから、その判断の枠組も示されることになったということです。

  地方議会に固有の懲罰権が付与されていること自体は、議会としての自律性の保持という観点から、とても大事なことです。例えば、市長に市会議員の懲罰権があったら大変ですよね。しかし、議会というのは、本来、自由な言論を戦わせる場であり、懲罰権の行使は、極めて慎重、かつ公平に行われることが求められています。
  ところが、議会の多数派が、少数派の議員を抑圧する手段として用いられてしまっているケースが、香芝市に限らず、全国でもあるようです。また、残念なことに、同じような問題は、100条委員会の設置を巡る議論や政治倫理審査会における議論でも生じています。
  本来、議会内の問題は、議会内での議論によって解決されるべきものと考えています。しかし、このような判決が存在することは、特に少数派に属する議員の皆さんにとっては、心強いものとなると思います。